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STARSHIPMODERISTA

       スターシップモデリスタ

 

        航宙日誌1道連れ逃避行

 

                   ☆ 1 ☆

 

 

 居住区にある公園エリアを、俺は特に目的もなく歩いた。

 公園といっても、地上のそれとは違う。

 広い空間に公園そっくりの光景を人工的に作った、衛星軌道上のささやかな『憩いの場』だ。

 耐圧ガラス窓の向こう側には、広大な宇宙が広がっている。

 今日から三日間の連休だが、特にやりたい事や行きたい場所があるわけじゃない。

 惑星オルバの上に浮かぶこのステーションには、居住区の他に宇宙港、歓楽区などもあるが、どれもおすすめスポットとは言い難い。

 まぁ、どこのステーションも大体同じ作りになっているのだが。

 居住区は、ステーション作業員の大部分が生活している。居住施設や公園エリアがある区域だ。

 宇宙港には、俺の職場でもある宇宙船の貨物場や、整備ドックがある。毎日、数多くの宇宙船が出入りする賑やかな場所だ。

 歓楽区は、その名の通りカジノや娼館といった施設がぎっしりと詰め込まれている。

 もちろん、どれも有料だ。

 宇宙空間に浮かぶ、大型中継衛星 ―― 通称ステーション。

 ここも、そのステーションの一つというわけだ。

 

 俺の名前はロン・コール。一六の時から、このステーションで働き始めて、五年になる。

 仕事は、宇宙港での貨物運搬。キャリアと呼ばれる専用運搬ロボットを操縦して、宇宙船の貨物コンテナを指定場所に運ぶ仕事だ。

 こう言うと簡単そうに聞こえるが、これがなかなか難しい。

 宇宙船用の貨物コンテナはとにかくデカい。とても重力下で扱えるような代物じゃない。

 従って、コンテナの運搬は無重力フロアで行われるわけだが、これがまた難しい。

 慣れるまでは頻繁に壁やら天井やらにぶつかって、余計な仕事を増やしたりもした。

 今では、それなりにキャリアを扱えるようになっている。

 モート級航宙免許も何とか取ったので、宇宙船の操縦もできる。やはり、何かしらの免許を取っておくのは大事だ。

 最近は貨物コンテナの運搬以外に、宇宙船の移動作業も任されるようになり、ほんの少しだが給料も上がった。

 平穏に過ぎていく日常。これを退屈というのは、贅沢な事だ。

 この宇宙には、明日をも知れない環境での生活を余儀なくされる人間も数多く存在する。

 親のいない孤児の俺が、こんな平和な日々を送れているのは、むしろ相当な幸運なんだ。

 

 公園エリアのベンチに座り、俺は特に何をするでもなくボーッとしていた。

 今日は、こうして一日のんびりしていようか。こういう日が、一日くらいあってもいいかもしれない。

 目を閉じ、静かに呼吸すると心が穏やかになっていく。

 うん、こういうのもいいな・・・・

 俺がそう思い始めた、その時だった。

「隣り、よろしいかしら」

 聞き慣れない女性の声に、俺は目を開けた。

 視線の先には ―― およそ、ステーションには似つかわしくない女性が立っていた。

 いかにもブランドものといった趣の、赤い服に身を包んだ二〇代前半くらいの女性。

 豪奢な金髪、青い瞳。ステーションの歓楽区にいる商売女の中にも美人はいるが、そういう手合いとは元から違う。

 どこかこう、全身から匂い立つ気品、というべきか。そういうものを、この女性は持っていた。

 ん・・・・? 何だろう、この眉間のあたりを押されているような感覚は。

 俺は無意識に、眉間を指で擦っていた。

「ああ、どうぞ。別に誰のものでもないから、ご自由に」

 俺がそう言うと、女性は薄く笑みを浮かべて俺の隣りに座った。

 周りの連中がひゅう、と口笛を鳴らす。

「お時間、よろしくて?」

 よろしくて、ときたか。これはいよいよステーションの人間じゃないな。

 しかし、地上からわざわざこんな所にくる物好きなんて、滅多にいない。

 何か用事でもあったのだろうか。

「まぁ、暇だけど」

「私はリュウカ。あなたは?」

「ロン・コール。ロンでいい」

「では、ロン。これを見て下さる?」

 女性 ―― リュウカは携帯端末をバッグから取り出し、何やら操作して『セル』を開いた。

 任意の場所に開く事ができる、総合情報表示用の光画面だ。

 端末のモニターから宇宙船の映話まで、幅広く活用されている。

 リュウカが開いたセルには、『ベイラントグループ令嬢婚約記念パーティ』と題された映像が表示されていた。

 ベイラントグループ ――

 この宇宙に知らぬ者とてない、宇宙船製造・販売のパイオニアだ。

 民間用の輸送船から宇宙軍の戦艦、宇宙警察の公務用機まで、幅広い供給網を獲得している。

 他の追随を許さない勢いで躍進を続ける、業界トップ企業だ。

 そのベイラントの令嬢が婚約、か。相手は、かなりの有力企業の御曹司とか、そんなところだろうな。

「私、このパーティに出席するんですけれど・・・・相手の方が急に来られなくなってしまって」

「はぁ・・・・」

「そこで、あなたに代役をお願いしたいの」

「はぁ!?」

 俺は目を丸くした。なぜ、そういう話になる?

 今、出会ったばかりの男に、いきなりこんな大きなパーティの代役を頼むなんて。

「何の冗談だ?」

「あら、冗談などではなくてよ。私は本気でお願いしているの」

「何も、こんなところにいる人間に頼まなくても、地上にもっとマシな男が」

 言いかけた俺にぐっ、と顔を寄せるリュウカ。周りのヤジ馬たちがいよいよ冷やかしの声をかけてくる。

「(こういうところにいる方にしか、頼めないのよ)」

 リュウカは小声でそう言った。

 ―― なるほど、そういう事か。何か、公にできない事情があるらしい。

 しかし、俺は孤児院を出てからずっとステーション暮らしだから、身分証明なんてあってないようなものだ。

 提示しろと言われたら、今働いている所の作業員証明証と、あとはモート級航宙免許証しか出せない有り様だ。

 会場に入る前にチェックされたら、その時点で終わりなんだが・・・・

「(ヤバい仕事とかじゃないだろうな?)」

「(いいえ。あなたはただ、私の相手役を“演じて”くれればいいだけ。それなりの報酬も約束するわ)」

 リュウカは俺に微笑みかけた。

 さて、どうしたものか。

 時間はある。何せ、今日から三連休だ。特にやる事もないし、行きたい場所もない。

 五年ぶりの地上、か。

「(・・・・本当に、ヤバい事は何もないんだな?)」

「(ええ。この私が保証するわ)」

 その根拠のない自信はどこからくるんだろうか。

 でも、悪い話ではなさそうだ。相手役を演じるだけで、大金を稼げるなら楽なものだ。

 それに、孤児院を出て以来の地上。重力に引かれる感覚を味わうのも、随分久しぶりだ。

「わかった。引きうけるよ」

「そう、それじゃ早速、宇宙港に行きましょう」

 セルを閉じ、端末をバッグに押し込んで、リュウカがベンチから立ちあがる。

「えっ? いや、ちょっと待って。一旦戻って、必要なものとか色々・・・・」

「必要なものは全て、こちらで用意させるわ」

 そう言うと、リュウカはバッグから携帯電話を取り出して、素早い指さばきで番号を押した。

「もしもし、私よ。用件は済んだわ。すぐに車を回して頂戴」

 電話をバッグに戻し、リュウカは俺の方を振りかえった。

「さぁ、行きましょう」

 俺はリュウカの案内で、公園エリアを後にしたのだった。

 

 見たこともない高級車に乗せられ、俺は宇宙港に連れてこられた。

 車は、俺が普段あまり行くことのないVIP用のピットへと滑り込んでいく。

 そこには、赤い宇宙船が停められていた。

 どっしりとした重量感が、全体から滲み出している。二基のロケットブースターを備えた、LFR(長距離航宙ロケット)型の機体だ。

 推進粒子を吐き出すノズルが、機体後部で口を開けている。

「これは・・・・」

「私の船、ツヴァイアークよ」

「えっ!?」

 俺は思わず声を上げた。

 こんな大型の宇宙船を個人で所有しているなんて、一体どこの令嬢なんだ、リュウカは?

「私について来て」

「は、はぁ」

 運転手たちの礼に見送られ、俺とリュウカはピットに設えられている、円筒形のブースに入った。

 リュウカはブース内のユニットにマルチ・パスを差し込み、セルを開いて転送先を入力する。

『しばらくお待ち下さい』

 セルにメッセージが表示された。

 マルチ・パスは基本的にはカード型の船籍登録証だが、他にも身分証明やセキュリティ・コードなど、数多くのデータを登録できる。

 船籍データの読み込みが終わり、ユニットのグリーンランプが点灯したのを確認して、リュウカはパスを抜いた。

『データ 確認しました 転送します』

 人工音声が告げる。

 その瞬後 ―― 俺たちは、ツヴァイアークのブース内に居た。

「こっちよ」

 リュウカに案内され、俺はブースを出て通路を進んだ。

 ツヴァイアークのコクピットルームは、居住区の俺の部屋より広かった。

 メインシートの下に、コ・パイロットシートが五つもある。

 馴染みのないシステムの仕様からみて、最新型の宇宙船なのか、あるいはフルオーダーメイドなのか。

 どちらにしても、俺には想像もつかないほどの金と技術が、この船には注ぎ込まれている。それだけは間違いない。

「ロン、そこのシートに座って」

「あ、ああ」

 俺は、メインシートの真下にあるコ・パイロットシートに座った。

 リュウカは玉座に座る女王のように悠然とシートに腰を下ろした。

「ツヴァイ、発進モード・スタンバイ」

『了解』

 女性の電子音声が答える。

 リュウカはコンソールを操作して、ステーションの宇宙港管制に発進連絡を入れる。

 少しして、リュウカの脇にセルが開いた。

 オルバ・ステーション公務職員の制服を着た、宇宙港の管制オペレータが応答する。

『こちら管制です』

「こちらツヴァイアーク。これより発進します」

『了解。ロックアームを解放します。機関出力を30%に保って下さい。またのお越しをお待ちしております』

「ありがとう」

 機体を固定していたアームが展開していく。

 ピット内の誘導粒子レールが作動して、ふわっとした奇妙な浮遊感が伝わってきた。

 推進粒子が、ノズルから吐き出される。

 徐々に加速しながら、ツヴァイアークはステーションから離れていった。

 

 

 ☆ 2 ☆へ続く

 

 

 

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